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sundy1987’s blog

1987年生まれ。コミュニケーションの幅を広げたくって自己表現を探り中。

読書:イシ―北米最後の野生インディアン (岩波現代文庫―社会) (シオドーラ・クローバー,行方昭夫)

 北米でネイティブ・アメリカン(本著内ではインディアンと表記なので、以下インディアンとする)が全て、保護された後に発見されたイシと呼ばれるインディアンの伝記である。イシは自身の種族が全滅したのちに、白人たちに発見され、全く生活スタイルの異なる世界で暮らしていくことになる。私はインディアンの生活に知識が無かったのであるが、石器時代の生活を維持する生活であったらしい。そこから、白人たちの世界に受け入れられ、かつイシも新しい生活を受け入れていく。生活スタイルの変化を楽しみ、言語が異なる中で3人の親友を持ち、周囲へ貢献した生涯であったことが、とてもよくわかる。

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ゲド戦記とイシ

 本著を手に取ったきっかけは、ゲド戦記の著者の家族が書いた本であるからである。以前、大好きなゲド戦記を英語版で読んだことがある。日本語と同じ内容であることは当然であるが、実は人種が明確に書かれている物語であることに気づかされた。ファンタジー小説の中では珍しく、ゲドは白人ではない。赤銅色の肌をした人種なのである。ゲド戦記の著者のル・グウィンの父がイシを受け入れた白人の一人であり、その妻がこの本を書いた。おそらく、ル・グウィン自身の体験や考えが色濃く反映されたゲドの設定であったのであろう。

 

 ゲド戦記が好きだったのは、主人公のみならず、自然や神話と共に素朴な生活を送っている世界観にも興味がそそられたのは大きい。本著のなかでは、インディアンが送っていた生活が四季と共に紹介されるが、自然や神話の中での生活が実際に存在していたことにとても感動させられた。ファンタジーのみならず、実際にそのような生活をしていた人がいることは、私の中にもそのような面があるのではないかと、より感じることができたのである。たまたま、同時期に古事記を読んでいた。現代に生きる私たちには奇想天外で説明のつかない逸話も多いが、イシ達の生活と神話の結びつきを知るうちに、それらは決して事実無根の夢物語ではないことを知った。それらは、人間の目ではとらえきれない自然の偉大さを理解する方法であり、そのなかでも大切にすべき人間としての何かを伝える確かな物語なのである。

 

誇りをもつこと、変化を楽しむこと

 しかし、それらディティールの素晴らしさと併せて、イシの人柄に強く惹かれる。イシはヤナ族というインディアンの家系に生まれ、一族消滅の前には、白人に迎合することなく独自の暮らしを貫いた。白人との生活を開始後にも、誇りは持ち続け、堕落した生活を送ることなく、人への礼節を欠かすことはなかった。一方で、新しく来た世界におけるルール等は進んで受け入れる。これはイシ自身が所属していたインディアン社会が非常に社会性を重んじる社会であったことも関係しているのであろう。私たちは全てを自分自身で決め、好きなように生きることができる。それはイシの送ってきた生活より安心で豊かであると言える。しかし、イシの生き方と照らし合わせた時に自分自身の人間としての未熟さも感じる。私は完全な別世界に突然移り住むという不条理な運命を、イシのように冷静に受け入れる自信はない。

 

人の共感力

 私は昨年の秋に本著を購入し、インディアンの生活に非常に心魅かれた。しかし、それがゆえにイシの家族が虐殺される章から全く読み進められなくなってしまった。インディアンと白人の対立は知っていたが、本著で分かったその実態は自己防衛的な要素以上の虐殺であった。私にとってインディアンは強く共感を覚える人間である一方で、虐殺する側にとっては全く別次元の人間ではないような存在であったのであろう。私たちは全く別の生き物である動物に強い愛情を注げる一方で、共感を覚えない同じ人間に対してはまさに非道なことをできる要素があるのである。あとがきに書かれていることであるが、アメリカのこの侵略の歴史を「ホロコースト」であると見直す動きがあるとのことである。私は、この一冊の本しか知らないし、また「ホロコースト」の言葉の重みも実はわからない。しかし、私の中にもおそらく、非道なことをできる要素があることは知っており、もし、社会がその発露を許せばこの侵略者と同様のことができたのであろうと本著で感じることができた。

 

イシ―北米最後の野生インディアン (岩波現代文庫―社会)

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The Farthest Shore (The Earthsea Cycle Series)

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