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How to connect the world? How to express myself?

読書:不平等社会日本(佐藤俊樹)

2000年に初版ということで16年前の新書だが、戦後システムの崩壊という長期的な問題を扱っているので、全く古くない内容であった。そして、エビデンスに基づいて議論を進めているので、読みやすく納得度が高かった。

  戦後の一億総中流社会が、学歴社会+「学校ではダメでも社会に出ればリベンジできる」という上昇ルートに支えられていたが、実はエリート層はその出身家庭に固定化されており、実はそこまで平等ではなかったこと、およびそれらのシステムすら失われ、今後も取り戻せないことが示されている。これらはイメージではなんとなく感じている人は多いかもしれないが、実は自分にとって都合のいいイメージだけをつまみ食いしやすい理論でもある。例えば、エリート層が生まれで有利になっていることには目をつぶり学歴社会という事実のみを注目し、実力で高い賃金を得ているという認識はイメージしやすいであろう。一方で、社会でリベンジを果たした人が学歴社会を批判するのもまたある種のつまみ食いとも言える。

 それを、SSM調査という長期データを解析して示す本著は、そういったつまみ食いをさせない。そして、社会の中で自分の損得だけを考えやすい私たちに、日本社会全体のことを考えないといけないと思わせてくれる。もちろんそこから抽象的な立場で議論をするには訓練が必要ではあるが…。国立国会図書館に「真理はわたしたちを自由にする」という言葉が掲げられているが、まさにその通りである。

 

以下、備考である…

 

◼︎疑問

○エリートの空洞化

社会の敗者への再加熱システムが一部、論理の飛躍が感じられたが、おそらく先行研究があるのであろう。竹内洋さんの著書を読みたい。

○解決策

筆者が日本の階級システムへの解決策として、機会の平等を挙げている。これには賛成である。しかし、筆者の唱える機会の平等を事後に検証し保証するシステムは必要なのであろうか。完全な社会システムはないので、例えば社会運動によって平等の意味を拡大させてきたアメリカのようなもので充分ではないかと思う。

 

◼︎社会科学

 抽象的な議論が多くてとっつきづらいという面もある。しかし、芸術家でない多くの凡人にとって…論理は直感を超えて未来を見せてくれることも事実なのである。昔読んだアイディアの出し方を広告ライターが書いた本には、時代を先取るために社会科学の本を読めとあった。

 共感力を揺さぶる娯楽作品が流行っているが…ぜひ、社会科学の本もたくさん読んでいきたい。